「即金・高収入」-。こんなうたい文句に釣られ、バイト感覚で特殊詐欺の片棒をかつぐ若者が後を絶たない。だが、成功報酬はだまし取った金額の5%ほどに過ぎず、交通費や宿泊費などの経費は新幹線代を除き、もっぱら自腹。加えて逮捕されるリスクも極めて高い。詐欺グループの手先として使い捨てのような扱いを受ける若者たち。供述から明らかになった「ハイリスク・ノーリターン」の犯罪実態とは-。(前原彩希)
「成功しないと報酬はもらえないのに、待機ばかりで公園で1日過ごすこともあった。警察に捕まるかもしれないという恐怖心も常にあった」
奈良県桜井市に住む女性(80)からキャッシュカードを盗み、200万円をだまし取ったとして、8月に窃盗容疑で逮捕された佐賀市の男(27)は、奈良県警の調べにこう供述した。男は4月、ギャンブル代を捻出しようと、会員制交流サイト(SNS)のツイッターで見つけたアルバイトに応募。「月100万円以上も可能」「警察に捕まるリスクはありません」-。高額収入をうたう文言は魅力的だった。仕事の内容は、ターゲットとなる高齢者宅を訪問し、だましの電話をかける「かけ子」らと連携してキャッシュカードを盗んだ後、ATM(現金自動預払機)で現金を引き出すというもの。いわゆる「受け子」と「出し子」だ。かけ子は警察官などを名乗って「あなたの口座情報が流出し、現金が引き出されている」などと嘘の電話をかけ、その後に受け子が金融庁職員などを装って訪問。必要な作業だとして、高齢者からキャッシュカードと暗証番号のメモを受け取り、キャッシュカードを目の前で封筒に入れ、「印鑑を持ってきてください」といって気をそらした隙に別の封筒とすり替えるという手口だ。男は4月19日、北九州市内で60代女性のキャッシュカードをだまし取ることに成功し、ATMから350万円を引き出した。さらに5日後、桜井市の女性宅を訪問し、キャッシュカードを盗んで200万円を引き出した。犯行はその都度スマートフォンで指示され、盗んだ金は自分の報酬分を抜いた上で現金の運搬役に手渡していた。だが、過去に犯罪歴があった男は7~8月、福岡、奈良の両県警にそれぞれの事件で逮捕された。キャッシュカードとすり替える際に自身の名義で作ったポイントカードを使っていた上、封筒には指紋が残っており、あっけなく身元が判明したという。両県警の調べに対し、男はこんな話を打ち明けた。犯行の際には九州から関西まで移動させられ、指示された公園や駅前で待機。成功しなければ報酬はもらえないため、時には昼食を抜き、インターネットカフェやラブホテルに泊まるなどして宿泊費も切り詰めた。直前で計画が中止になることも珍しくなく、「そろそろ成功させなければ」と焦りは募るばかりだったという。SNSなどで高額報酬が得られる「闇バイト」を探し、特殊詐欺に加担する若者が増えていることが問題になっている。犯行場所は東京や大阪などの都市部だけでなく、地方にも広がっている。奈良県警が今年9月末までに、特殊詐欺関連の事件で逮捕したのは29人。うち19人が受け子や出し子で、大半が10~20代だった。実行役である受け子や出し子に支払われる成功報酬は5%ほど。逮捕されるリスクの大きさに比べ、見返りは少ない。県警が8月に逮捕した男が受け取ったのも、相場通りの10万円だった。県警生活安全企画課は県消費生活センターなどと協力し、「目先のたった数万円で、あなたの『人生』を売らないで」などと書かれたチラシを作成し、防犯教室などで配布している。県警捜査2課の担当者は「受け子や出し子は必ず捕まる。一時の金欲しさに犯罪に手を染めれば、人生を台無しにすることになる」と警鐘を鳴らしている。


産経ニュース / 2019年11月11日 10時1分